真っ赤に塗って嘘にした

 「密室の恐怖実験」という映画のメインテーマをよく口笛で吹いている。キル・ビルの中で印象的な使われ方をしていた曲で、曲名を調べてびっくりしたものだった。
 口笛は子供の頃、湯船に浸かりながら父親に教えてもらった。音が出るまで何日かかかったように思う。一度吹き方を覚えたらこっちのもので、口笛は一番素直な楽器で、一番手軽な楽器になった。歌舞伎町の女王など、口笛が出てくる曲を聞いていると合わせて吹いてしまう。
 「夜に口笛を吹くと蛇がくる」って話がある。地域によっては泥棒だったり、幽霊だったりするらしい。口笛はいつも、何かを呼んでいそうな響きがあるなと思う。その淋しさを内包したような響きが好きで好きで、朝の手前で吹いてしまう。さて何が寄ってくるのか、集まってくるのか。

 「嘯く」という言葉には「口笛を吹く」という意味もあるらしい。なるほど嘘つきは口笛が得意そうである。嘘にせざるを得ない感情を赤く塗って、煙に溶かして、口笛に乗せて、空に逃がした。秋は山々ですら嘘めいた赤に染まる。

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今日の手