かつて、レンタルビデオ屋というのがあって

 大学生のころ通っていたレンタルビデオ店が、今月いっぱいでなくなると聞いた。青天の霹靂、という訳ではない。多くのTSUTAYA実店舗をはじめ、レンタルビデオ店が次々と閉店している。何か見たい映画があっても、今やNetflixやプライムビデオで事足りるし、そのラインナップになくてもネットレンタルの方が断然お手軽だし。CDだって、Apple MusicやSpotifyの方が断然楽だ。CDを買ってきても、結局Apple Musicで聞くことだってある。学生に聞くと、部屋にCDやDVDを再生する機器がなく、パソコンやスマホサブスクリプションサービスやらを用いて鑑賞する人が増えているみたいだ。CDが売れないのも当たり前な気もする。

 思い出の多い店なので、閉店する前に一度見に行くことにした。DVDレンタルは続いていて、レンタルサービスを終えたCDは200円で販売されていた。その中から、いくつか目についたサントラを買った。管理用のバーコードや歌詞カードに関する注意書きがケースに貼られていて、その佇まいに歴史を感じる。

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 子供の頃、レンタルビデオ屋に連れて行ってもらうたびにドラえもんの映画やSDガンダムのビデオを借りてもらった。ドラえもんの映画は初期のやつほどこわいなと感じた。セリフを全部覚えるぐらいに、繰り返し見ていた。

 中学生の頃からずっと帰宅部だったので、持て余した時間で映画やCDを借りてきては消費していた。この頃にはもうDVDが普及していた気がする。生徒手帳が身分証明になるので便利だった。名前だけどこかで聞いたようなロックの名盤や名作映画から、ジャケットで気に入ったやつを借りていた。西部劇をひたすらに見た時期や、ハイジャックものの映画だけ見続けた日のことを覚えている。返しに行かなきゃいけないからあわてて見たり、返しに行ったから借りてきていた。つまらない映画も、なんでつまらないと感じたのか考えていると楽しいことに気づいた。

 大学の頃から、友達やサークルの人とみんなで見ることが増えた。恋人とお互いに1本ずつ選んで帰るのも好きだった。自分で選んだやつはあんまりだったけど、相手の借りてきたやつが好きだったりとお得な体験があった。自分で選んでいただけでは見なかった映画や、聞かなかったアーティストをたくさん教えてもらった。エロパロディ映画のタイトルにゲラゲラ笑ったりしていた。一本ぐらい見ておけば良かった。

 「昔の方がよかった」なんてことは全然思わない。ただ、あの頃の帰り道の、不便だけど幸せな感覚は経験できて良かったなあと思う。今でもまだレンタルビデオ屋はあるし、少しおおげさなんだけど。それしかない頃と、他の便利な選択肢があるのとではまた変わってくることだと思う。

 そのうち、実店舗のレンタルビデオ屋はなくなるのかもしれない。「昔、レンタルビデオ屋があってさあ」なんて面倒臭い話の切り出し方を、そう遠くない未来にするのかもしれない。そのときは、嫌われない程度に「それもそれで良さはあったよ、不便だったけどさ」と笑って話したい。レンタルビデオ屋を描いた大好きな映画の話もしたい。1本しかないのに全然返しに来ないやつがいる話もしたい。アルマゲドンがやたら出てる話とかしたい。「サメ映画こんなにあるの」とびびった話もしたい。ゾンビ映画の幅広さについて話したい。「定番!記憶喪失モノ」という棚を見た話をしたい。