京都みなみ会館で『太陽を盗んだ男』を観た

 京都駅を少し南へ下った所に、京都みなみ会館という映画館があった。1963年に営業を始めた、スクリーン1つの小さな映画館である。建物の1階がパチンコ屋だった名残で、外にはその店名「ラスベガス」と書かれた大きな看板が備わっている。
 地元民に愛された映画館だったが、建物の老朽化により2018年3月31日に閉館、55年の歴史に幕を下ろした。移転先はまだ発表されていない。閉館が決まってからも様々なイベントが組まれ、映画とライブを組み合わせたものや爆音上映、オールナイト上映企画の一つには「カウボーイビバップ全話上映」なんて回もあった。さてどの映画でみなみ会館納めしようか思案してたところ、ラインナップに『太陽を盗んだ男』を見つけた。
 
 中高生の頃、レンタルビデオ屋でひたすらに映画を借りて見ていた。おそらく校内ただひとりの「帰宅部」だったので、部活生に負けないぐらい何かをやろうと躍起になっていたのかもしれない。『太陽を盗んだ男』に出会ったのはそのころで、一度しか見ていない映画だけれど、今でも一番好きな映画のひとつだ。これほどふさわしい作品はないだろうと思い、みなみ会館へ急いだ。

 閉館を前に、みなみ会館の中は歴代リーフレットが展示されていた。展示を見ていると、さまざまな思い出が蘇ってくる。好きな人を『プレスリーVSミイラ男』に誘って断られたり、大好きな後輩が誘ってくれた映画が『ムカデ人間』だったり。オールナイト上映を初めて観たのもここだし、舞台挨拶やサイン会にも参加した。『落下の王国』も『牯嶺街少年殺人事件』もここで見て、大切な作品になった。

 最終日前日だったのもあるのか、みなみ会館は超満員で、かわいい老夫婦が「流石はジュリー、大人気だ」と頬をゆるませていた。初めてフィルムで見た『太陽を盗んだ男』は、何箇所かコマが飛んでいたけれどやっぱり抜群に面白かった。帰って来てから、ずっと買うか悩んでいたDVDをすぐに注文した。

 数学教師がプルトニウムを盗み出し、自宅で原爆を作る。それを用いて、国に様々な要求を突きつける。荒唐無稽だが、時代のエネルギィを凝縮した、まさに爆弾のような作品である。この爆弾に当てられた、影響を受けた作品は数知れないほどにある。近年で言えばシン・ゴジラでも、本作の重要なシーンのロケーションが使われているし、本作の楽曲もエヴァで引用されている。ジュリーの口元で退屈を体現し、爆発と再生を繰り返す味のなくなったチューイングガムが本作の通奏低音だ。

 監督である長谷川和彦は、本作を含めて2作品しか映画を撮っていない。こんな作品を撮ってしまったら、なかなか次に取りかかれないのも頷ける。リメイクの話が数多く来たそうだけれど、全部断ったそうだ。この時代だから成立したテーマであるようにも思う。そして、だからこそ現代にも通じるテーマが響いてくる。

京都のバンドmol-74「エイプリル」のMVには、京都みなみ会館入り口の階段が写っている。

綺麗な映画を観た後に ふと君を思い出した

という歌い出しで始まる曲である。京都で暮らした人の思い出に、みなみ会館は登場するのだ。移転先でまた、みなみ会館のコアで少し狂ったラインナップに出会える日が楽しみでならない。そこでまた、綺麗な映画や狂った映画を見続けていきたい。

太陽を盗んだ男 ULTIMATE PREMIUM EDITION [DVD]

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太陽を盗んだ男 ― オリジナル・サウンドトラック

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