出町座で会いましょう

 初めて映画館に行ったとき、何を観たか覚えているだろうか。僕の場合はドラえもんゴジラだったと思う。暗闇の中、入場特典のおもちゃを握り締めながら夢中になっていた。暗闇の中にたくさんの知らない人たちが、整然と並んでいるその光景が、なんとも不思議に思われた。
 立誠シネマスタッフによって立ち上げられた映画館&本屋&カフェ「出町座」が、12月28日にようやくオープンした。店内にある書店は「CAVA BOOKS」、カフェは「出町座のソコ」という名前になっている。この商店街は「たまこマーケット」にも登場するらしい。豆餅が有名な「出町ふたば」も近所である。伸びきった開店日が12月28日は、リュミエール兄弟が世界で初めての有料上映会を開催した日付と重なっていた。

 映像に関する授業を受けると、映画の基礎となった「シネマトグラフ」を作り上げたリュミエール兄弟の作品を見ることになる。彼らが製作した50秒前後の作品は、どれも構図が美しく、小さな物語を持っている。「リュミエール!」では、リュミエール兄弟の作品の中からよりすぐった108本が上映される。
 工場で働く人々の日常や、世界各地の風景、家族の団欒、こどものいたずら。出演できたのが嬉しくて、オーバーアクションしてしまうコメディアンの可愛らしさよ。可愛らしいコメディや演出しようのない木々の揺れ方、光の入り方。既にドリーショットまで繰り出しており、アイディアにあふれている。リュミエール兄弟の作品は全部で1422本に及ぶそうである。YouTuberかよ。映像を映画たらしめるものについて考えるきっかけになった。

 「CAVA BOOKS」で、買い損ねていた「早稲田文学増刊 女性号」を購入。ヴァージニアウルフ「ロンドン散策」やジーン・リース「ジャズと呼ばせておけ」など、嬉しくなるラインナップである。そう広くはないスペースで、ひとつひとつテーマを持って棚を作っているようだった。凝った棚の配置だけれど、狭くてすれ違いにくいのが気になる。入り口付近の棚も、屈まないと下の本が見えない。この辺はおいおい良くなっていくんだろうか。
 
 初日ということもあり、挨拶に来た方々も数多くいたみたいだった。出町座で使われている映写機について、思い出を語っている方などを見かけた。近所の方々だと思われる人も多かった。あたらしい町の本屋として、映画館として、良い場所であり続けて欲しいなと思う。

https://www.instagram.com/p/BdPMDI9HKpZ/

 立誠シネマが閉まる前にも「この世界の片隅に」を観に行った。一緒に観に行った子が寝坊したのだけれど、開場直前にマンガみたいな走り方で現れたのがとても面白くて笑ってしまった。鮮やかな赤い服が綺麗だった。上映後に感想を聞いたら「良い映画だったけれど喉がカラカラで大変だった」と言っていて、また笑ってしまった。またなにか一緒に出町座へ見に行きたいな。

https://www.instagram.com/p/BXIBmInAN3w/

 映画館は良い。たくさんの人が同時に同じものをみる良さがある。誰かと一緒に観に行きたくなる。それで感じる不都合も多いけれど、今のところはメリットが勝っている。映画館と映画の発祥に思いを馳せつつ、ふたばの豆餅を平らげたのだった。またいつか、出町座で会いましょう。