9月、渋谷アップリンクで映画『少女邂逅』を見た。
「ムージックラボ」というイベントに出品されたもので、24歳の新進気鋭・枝優花さんの監督作である。瑞々しく、カメラワークが絶妙でとても美しい映画だった。その映画の中でも、格別な存在感を発揮した主演2人が保紫萌香さんとモトーラ世理奈さんである。保紫萌香さんはミスiD2016グランプリ、モトーラ世理奈さんは装苑の専属モデルらしい。また何かで見てみたいと思っていたら、大好きな吉澤嘉代子さんのMVに出てきて驚いた。
秋の朝に、ひとり夏に取り残されたような女の子を描いた名曲である。妄想系シンガーソングライターと称された吉澤嘉代子さんだけれど、東京絶景に続くような地に足がついている、しかしつま先で歩くような危うさと儚さを感じる曲である。
このMVが公開された日は、まさに季節が一夜にして変わり、秋が来たような寒さだった。だれも昨日を生きられない、追い立てられるように日々は続いていく。その日々の中には、日記に記したいような、誰にも話したくないような、触れられたくないような、幸せな日がある。だいたいのことは誰かの中にだけ、物語として存在する。そういった物語を、曲という形で物語る吉澤嘉代子さんの美しさよ。
感覚として残留している「あなた」を探す帰り道。歌詞も抜群に美しいのだけれど、
駐輪場で鍵を探すとき
かき氷いろのネイルが剥げていた
という部分がすごく好きだ。「かき氷いろ」という歌詞カードの表記にもグッとくる。あまり言語化されてなかった「駐輪場で鍵を探す小さな孤独」と、その際にキラキラとした夏(昨日)の爪が剥がれ落ちていることに気づく風景が今ひとりであることを際立たせる。次のアルバムが、今までより一層踏み込んだ作品になる予感がするリード曲でした。
シングルには伊澤一葉さんがピアノを弾いてる最高なバージョンも収録されているので聞きましょう。泣いちゃいます。初回限定版はライブがほぼ丸々一つ入ってて、大満足です。チャプター分けや構成にも愛を感じます。背面ジャケットも気が利いてるんだこれが。おすすめの一枚です。
街じゅうが 朝なのだった 店を出て
枡野浩一
これから眠る 僕ら以外は
秋になると 果物はなにもかも忘れてしまって うっとりと実っていくらしい
八木重吉
- アーティスト: 吉澤嘉代子
- 出版社/メーカー: 日本クラウン
- 発売日: 2017/10/04
- メディア: CD
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