湯浅政明・上田誠『夜は短し歩けよ乙女』の長い夜

特典に釣られて『夜は短し歩けよ乙女』を公開初日に観てきたのだけれど、これが期待以上、遥か上空に最高だったのでみんな見てほしいという論旨です。京都に住んでいるのだけれど、より京都が好きになる。

以下ネタバレを含むので、画像挟んでおきます。

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森見登美彦さんの原作ファンとして、どうなるのかワクワクしながら見ていた。大胆な組み替えにより、春夏秋冬の出来事が一つの夜に集約されている。「なんて無茶を!」と思ったのだけれど、これが作品にドライブ感をもたらしている。物語を自覚の無いままグイグイ引っ張り力強く歩き続ける「黒髪の乙女」は、花澤香菜さんの力も相まってどこまでも魅力的でキュートなキャラクターだった。原作よりもしっかりしてはる雰囲気。星野源さん演じる「先輩」も後半になるに従い、どんどん本人の魅力的と相まって素敵な人物になっていく印象。

中でも圧巻なのはやっぱり原作の秋・学園祭の描き方!! 原作からスケール感の増している各出来事の中でも、学園祭のハレルヤっぷりは目を見張るものがある。オープンリールコンピュータとモニターが並ぶ地下組織(ばっちり平行世界も写し込むファンサービス)、それを束ねる学園祭事務局長。原作から最も魅力が増し、登場シーンが増えたのはこのキャラでしょう。劇中劇をミュージカルにしたのは唸るアイデアですね。今年はメタ・ミュージカルの年という感じがします。

アニメは基本的に『描いたもの』しか画面に映らない。湯浅監督の作品にはアニメならではの表現が詰め込まれており、ディティールを省略したキャラクター、アイテムが所狭しと並べられている。ある時は色を失い、ある時は色めき立ち、独特なパースで走りだす。色彩を放つ三階建電車の絢爛さたるや。

絵本「ラ・タ・タ・タム」を巡る物語を主軸に、走り続ける黒髪の乙女と追いかける先輩の物語に掛け合わせるシンプルで力強い骨子。かれらは酩酊し、辛さと暑さに苦しめられ、ロマンチックに突き動かされ、病魔に冒され、人々とご都合主義に救われる。コイを失い、コイを探し求め、コイが落ちてきて、コイに落ちる。こんなにも見事で美しく、珍妙な京都の長い夜があろうか。いや、当事者からすれば、どれだけ時間があっても、夜を引き伸ばしてくれる存在がいても、夜は短いものなのだろう。

入場特典が「先輩から乙女への手紙」、来週が「乙女から先輩への手紙」で、来週も見に行かざるを得ない。こういう商法どうかなあと思うのだけれど、2回目以降の鑑賞も充分楽しめる作品であるように思う。ブルーレイ出たら部屋でかけっぱなしにしておきたいような、大好きな作品が増えた夜だった。

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