歌舞伎NEXT『阿弖流為』を観た

 うだるような暑さの、少し早い夏の日だった。

 刺すような日差しの中、道でパイプ椅子に座り、分譲マンションの看板を持ったスーツ姿の男性は、地面を睨みつけていた。その足の貧乏ゆすりが、僕の視線に気づいて止まった。品の良い外国人観光客の老夫婦が、細い路地へカートを携え、汗を流しながらも微笑んで歩いて行った。「夏を感じた瞬間」を切り取った素敵なメールが届いた。すべてに急かされているような気持ちになる夏が好きだ。

 いつもだったら部屋でカラッカラに干涸びさせる休みの日だったけれど、映画館で歌舞伎NEXT『阿弖流為』を見るために朝から街へ出た。『阿弖流為』はアテルイ、と読む。「劇団☆新感線」が手がけた「アテルイ」を歌舞伎にしたもの。大学生の時分、大阪に住んでいた友人に連れられてよく「劇団☆新感線」の舞台を観に行った。演出の中島かずきさんが手がけたグレンラガンやキルラキル、仮面ライダーフォーゼといった作品も大好きだ。五右衛門ロックに出てた異常に歌がうまい人、フォーゼでおかまキャラを演じてたことに気づいてびっくりしたものだ。口上や見栄など、もともと歌舞伎のエッセンスが多分に含まれた作品をつくっていた彼らが、歌舞伎に挑んだ『阿弖流為』、これは見ておかねばと思ったのである。

 田村麻呂と阿弖流為、立烏帽子をはじめ、登場人物がこれでもかと素晴らしい存在感を持ってスクリーンに映し出される。中でもやはり女形を演じた中村七之助さんが見事で、所作の演じ分けの上手さがスクリーンでも際立つ印象。もちろん現場に勝るものはないだろうけど「え、どっち観てたらいいの!」という場面もしっかりと映し出されていて、映像ならではの構図が楽しめる。歌舞伎であり、やっぱりそこに外連味をこれでもかと足した歌舞伎NEXTとして阿弖流為に満足して帰ってきた。なにより曲が良かった。サントラ出して欲しい。

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 この「月イチ歌舞伎」、7月は野田秀樹による「研辰の別れ」が予定されているので観に行きたい。ワンピース歌舞伎もラインナップに入っているし、ラジオで伊集院光さんが絶賛していた「女殺油地獄」も観ておきたい。今年は歌舞伎を見に行きたいなと強く強く感じた一作だった。

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