とびきりの"本物"映画。上田慎一郎『カメラを止めるな!』を君は見たか

カメラを止めるな!」という、新人監督・無名キャストによる映画を見てきたんですが、悔しいほどに大傑作です。こればかりは未見の人に何をいうのも野暮に感じるので、何の前情報もなく見に行って欲しい。まだまだ上映館が少ないものの、京都だと桂川イオンシネマでやってます。見た上でつまんないと感じたら、その話をネタにお茶でもしましょう。いやあ、映画って本当にいいですね。以下、ネタバレと強い気持ち・強い愛を含みます。

kametome.net

映画でしかできないことを見事なグルーヴで描き、クライマックスまで駆け抜けていく。狂気の脚本である。序盤での違和感のひとつひとつが、後に訪れる大きな面白さの予感に変化する。本編中に「あれ、回収されないな」と思った箇所があったのだけれど、ガチトラブルだったらしい。そういう部分も魅力に思えてしまった、これはもう恋でしょう。

生放送でワンカット30分強のゾンビ映画を放送する。これは途中で「カメラを止めない」ための舞台装置だけれど、生放送じゃなくても、ワンカット30分のゾンビ映画なんて無茶で無謀なのだ。その場で隠れながら血糊を演出するスタッフ、早替わりのゾンビメイク、腕の特殊効果。これを撮り切ったのは映画を撮った経験がない人でも「尋常じゃねえな」と感じたと思う。それでいて、そのワンカットゾンビ映画がどう撮影されたかを描く、その「裏側」が本編である。

全体を通しての小ネタや笑いどころの入れ方がセンスに溢れている。破綻しきらない程度に入れ込まれた違和感が、裏側を描くことで意味を持っていく。予定されていた脚本が、どんどんと「我々が見た冒頭部分」に収束していく。あの唐突なシーンはそういうことだったのか! てことはあれも〜と思いを巡らせているうちにどんどんとグルーヴは加速していくのだ。思いがけないトラブルをどうにか回避解決し、劇中のスタッフ陣にも連携が生まれていく。

プロデューサー陣がまともに見ていない、その難しさがわかっていない中、トラブルに東奔西走するドタバタコメディだが、クライマックスの作り方が抜群に上手くて唸ってしまう。「そんなちゃんと見てる人いませんって」というプロデューサーのセリフに、「いるでしょ!!」と叫び返す。監督は、そしてスタッフ陣はどんどんと映画の「熱」に飲まれていたのだ。熱を思い出していくのだ。

本当に一握りしかいないかもしれない「しっかりとみていてくれる人々」のために、全力を尽くす。これが愛や熱や情熱と呼ばれる、世の中を輝かせてくれるものでしょう。

劇中劇は、学生の自主制作映画のようなプロットで、拙いし、ワンカットであることだけが見所だとも言える。その作りの不味さを逆手に取ったような舞台裏で、あらゆる登場人物が映画に対する熱を取り戻していく、この脚本の構造が美しい。ゾンビメイクした俳優やプロデューサー、そして監督と娘総動員での組体操に、感動と笑いで涙が出る。登場人物全員が愛おしくなる、こんなとびきりの「本物の映画」が、日本で、低予算の中で生まれたことに、悔しさと嬉しさを感じました。今日本の映画界は先行きが怪しい時代となっているように感じているのだけれど、こういった作品が生まれたことで、まだまだ楽しい作品が生まれ続けるんじゃないかな、ハッパかけられた人もたくさんいるんじゃないかなと思った。これからも折に触れて見直したい、最高の映画です。

あらゆるしがらみや現代の空気から解き放たれたようなラストを見たなら、あなたも心の中で、こう叫んだことでしょう。


「ポン!」と。

Keep Rolling (映画『カメラを止めるな!』主題歌) [feat. 山本真由美]

Keep Rolling (映画『カメラを止めるな!』主題歌) [feat. 山本真由美]