てろてろ/toykey punky

 仕事を終えて外に出たら、息が白く染まった。冬が来たんだと嬉しくなる。息が白くなるのは子供の頃から大好きで、少し気取って歩いてしまう。水分は口からこんなに出て行くのだと思い出し、息はこんな形をしていたのだと思い出し、言葉がこんな色だったら良いなと思う。嬉しくなってもうひと呼吸したけれど、今度は染まらなかった。これから容赦なく寒くなっていくのだろうし、楽しみはとっておくことにする。

 建物の外に出た際に、空を見上げてしまう癖がある。これも子供の頃からだと思う。一番開けてる場所を探しているのかもしれない。星がろくに見えないこの街では、星座に縛られていない夜空を見ることができる。それでも、オリオン座を探してしまうし、見つけてしまう。オリオンもカシオペヤも、指でなぞりたくなる形をしている。指でなぞって作った形だからなんだろう。

どうしたって呼吸が下手だ、これも子供の頃から。

 家を出て、空を見上げて、前を向いて、何かを忘れたような気がして振り返り、足元に目を配りながら歩く。アパートの駐輪場に、自転車の鍵が落ちているのを見つける。こんなおもちゃみたいな鍵で錠は閉じられているのだと、全てが愛おしくなる。あの鍵であちこちの扉が開いたら良いのにな、面白いのにな。あの喫茶店のシャッターも、そこに停めてあるイタリア車も。誰にも言えないことも、そういうちゃちな鍵で開きそうな気がしている。忘年会、という名目で2人ぐらいで飲む予定が増えてきて、なんだか嬉しいです。いろんな人と飲みに行きたい。お酒じゃなくったって良い。あなたの話を聞きたいし、僕のことを少し話したい。今年は本当に良いものにたくさん触れることができた。息のように白い魔法が使えるようになりたい。

街灯の灯りが星の光を消しても
傾いた夕日は本当に素晴らしかったよ

矢野絢子『てろてろ』

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